平成19年(2007年)能登半島地震 被害調査報告
道路・橋梁被害と地震動


1.はじめに
 2007年3月25日9時42分,石川県能登半島沖を震源とするMj 6.9の地震が発生し,我が国では福岡県西方沖を震源とする地震(Mj 7.0)以来となる死者1名,及び負傷者336名,住宅全壊630棟,住宅半壊1,520棟(5月28日現在)の被害を生じた1).この地震では,輪島市鳳至町の気象庁観測点,七尾市田鶴浜町,輪島市門前町走出の自治体観測点,及び穴水町大町の防災科学技術研究所K-NET観測点において震度6強が観測されている2)3)(Fig.1).また,本地震の災害を受けて局地激甚災害指定基準の改正が実施されたことにより,地震後1ヶ月以内である4月25日をもって局地激甚災害に指定され,七尾市,輪島市,珠洲市,能登町,志賀町,穴水町の3市3町に対して特別な財政援助などが実施されている4)  

Fig.1 震度分布[△:気象庁,及び自治体観測点,□:防災科学技術研究所K-NET,KiK-net観測点],余震分布[防災科学技術研究所Hi-netによる本震後一週間の余震分布],及びCMT解[防災科学技術研究所(F-net),及び気象庁(JMA)]
 道路被害は能登地域を中心に発生しており,有料道路,国道,県道,その他の道路において路面崩壊,斜面崩壊などが発生した1).特に,能登有料道路では路面の崩壊が11ヶ所発生したことにより全線開通までに約1ヶ月(4/27に全面開通)を要している.また,能登半島を一周する国道249号は輪島市八世乃(はせの)洞門の崩壊により6月28日現在においても通行止めの箇所があり,7月頃までの復旧を目指しているということである.橋梁被害は七尾市能登島に架かる2本の橋梁,能登島大橋と中能登農道橋において被害が発生し,特に能登島大橋は橋脚の基部における損傷が報告されている.
 高橋良和(京都大学防災研究所),豊岡亮洋(京都大学大学院都市社会工学専攻),後藤浩之(京都大学防災研究所)の3名はこの地震の一報を受け,3月25日,26日に道路・橋梁被害及び地震動に関する現地被害調査をFig.2に示すルートで実施したので,各関連資料と併せてその一部を報告する.ただし,前述した被害の概要は地震後に整理された情報であるため,断片的な情報に基づいた限られた箇所における被害調査であったことを付記しておく.
 

Fig.2 被害調査ルート
[七尾市→穴水町→輪島市街→輪島市門前町→志賀町]
 
2.地震の概要
 本地震の震源は能登半島沖に位置し,気象庁の発表によると37°13.2′N,136°41.1′E,震源の深さは気象庁により11km5),防災科学技術研究所F-netにより8km6)と発表されていることから地殻内地震と推定される.気象庁とF-netにより震源メカニズム解(CMT解)が推定されており(Fig.1),両メカニズム解から本地震が西北西―東南東方向に圧縮軸をもつ横ずれ成分を含む逆断層型地震であることが確認される.防災科学技術研究所Hi-netにより公開されている気象庁一元化震源要素を用いて本震後一週間の余震震源の分布をFig.1に併せて示す.余震分布から本地震の震源断層が南東傾斜であること,その走向が北東ー南西方向であることが確認される.
 本地震では,前述したように輪島市鳳至町,輪島市門前町,七尾市田鶴浜町,穴水町大町において震度6強が観測されたが,時刻歴波形データが公開されているものは輪島市鳳至町の気象庁観測点と及び穴水町大町の防災科学技術研究所K-NET観測点との2地点のみである.Fig.3にこの2地点の速度波形と,比較のため2004年新潟県中越地震の気象庁川口観測点,兵庫県南部地震の神戸海洋気象台,JR鷹取駅の観測波形を併せて示す.なお,断層法線方向の成分で比較を行うために,本地震の記録はN148°方向の成分を示している.図中のスケールは全波形で同様であるために直接振幅の比較ができ,本地震がここで示した他の地震の振幅と同じ程度の約100cm/sの最大振幅を有していることが確認される.  

Fig.3 観測された速度波形の比較(参考:岩田・浅野)
 
3.現地被害調査の報告
3.1 中能登農道橋
 中能能登農道橋(Photo1)は能登島の西部に架かる斜張橋と桁橋とが一体となった全長620mの橋梁で,斜張橋部と桁橋部の連結部でPhoto2に示す約10cmの橋軸方向の振動痕が確認された.連結部では若干の段差が見られるものの橋梁の構造体に被害が確認されないことから,この橋軸方向の変位は許容範囲内と考えられる.また,2ヶ所で照明灯の照明が落下,及び取り付け部の段差が確認されたが,橋脚等に損傷は確認されなかった.

Photo1 中能登農道橋の概観
 

Photo2 中能登農道橋の橋軸方向の振動痕
 
 中能登農道橋に近いK-net観測点であるISK005(穴水)とISK007(七尾)の観測波形に対して,橋軸方向に対応する東西成分の変位応答スペクトルをFig.4に示す.実際に入力した地震動は距離,対象地点の地盤の違いのためにこれらの地震動と異なると考えられるものの,振動痕と対応させて10cmのオーダーの相対変位が発生する地震動が橋梁に入力したと推定することは不合理ではないと考えている.  

Fig.4 中能登農道橋の橋軸方向の振動痕
 
3.2 国道249号 志賀町の盛土崩壊
 国道249号では落石・陥没等が9ヶ所で発生し,5月28日現在1ヶ所で通行止め,残りの8ヶ所では通行止めが解除されている.震源に近い国道249号志賀町深谷地区ではPhoto3のような大規模な盛土の崩壊が発生している.現場で確認したところ高盛土である北側斜面の部分では幅10mほど,長さ100mほどに渡って盛土が崩壊していた.
 

Photo3 国道249号志賀町深谷地区での盛土崩壊現場
 
 本地震のマグニチュードが6.9であることから,経験的には震央距離100km程度までの範囲で斜面崩壊の可能性が考えられる8)9)が,本地震のスケールを考えると能登半島全域が震央距離100kmの範囲に収まるため,本地震が能登半島で斜面を崩壊させる可能性を有していることは経験的な観点から明らかである.本崩壊は盛土であるが,斜面崩壊よりも弱い地震動で崩壊する可能性が考えられるため,同様の考察が可能と考える.さらに詳細な検討を行うため,本崩壊箇所に近いK-net観測点ISK006(富来)の観測記録に対して,盛土構造物の耐震性能照査に有用である片側必要強度スペクトル10)を計算し,斜面災害,盛土崩壊が数多く報告された中越地震の山古志村での記録と比較する(Fig.5).0.5秒以上の固有周期を有する地盤に対しては,山古志村の記録の方が大きな設計水平震度を要求するが,より短周期を固有周期とする地盤に対しては山古志村と同レベルの設計水平震度を要求することが確認されるため,短周期成分で見ると盛土を崩壊に至らせる可能性の高い地震動が入力していたと推測される.
 

Fig.5 K-net観測点ISK006(富来)記録の片側必要強度スペクトル
 
4.おわりに
 本報告では,防災科学技術研究所のK-netの観測記録を使用させていただきました.当データは地震直後より公開されていたため,被害調査を行う上での基礎情報として非常に有用でした.家村浩和教授(京都大学工学研究科),澤田純男教授(京都大学防災研究所),岩田知孝教授(京都大学防災研究所),福島康宏様(日本技術開発(株))には本調査の遂行にあたり多くの情報を頂きましたので記して感謝致します.また,現地にてお忙しい中情報を提供いただきました方々に感謝を申し上げると同時に,被災地の1日でも早い復興をお祈り申し上げます.
 
参考文献
1) 内閣府:平成19年(2007年)能登半島地震について(第30報)
2) 気象庁:災害時地震・津波速報,平成19年(2007年)能登半島地震
3) 防災科学技術研究所:強震ネットワーク(K-NET)
4) 内閣府:「平成十九年能登半島地震による石川県鳳珠郡能登町等の区域に係る災害についての激甚災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」について
5) 気象庁:「平成19年(2007年)能登半島地震」の特集 地震の詳細資料
6) 防災科学技術研究所:広帯域地震観測網(F-net)
7) 岩田知孝,浅野公之:2007年能登半島地震に関する情報
8) 安田進,杉谷俊明:地震時斜面崩壊履歴の調査,第23回土質工学研究発表会発表概要集,pp.891-892,1988.
9) 地盤工学会:切土法面の調査・設計から施工まで,地盤工学会,1998.
10) 澤田純男,土岐憲三,村川史朗:片側必要強度スペクトルによる盛土構造物の耐震設計法,第10回日本地震工学シンポジウム,pp.3033-3038.1998.
 
調査メンバー所属
京都大学防災研究所 耐震基礎研究分野
京都大学工学研究科 都市社会工学専攻 構造ダイナミクス研究室
 
(文責 後藤浩之