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Earthquake

2011年2月22日にニュージーランド・クライストチャーチ近郊で発生した地震の地震動について update 2011年3月11日

(注意) 下記内容は速報です.内容が修正・更新されることがあります.


土木学会調査団報告会の資料をアップしました PDF


1.はじめに

 現地時間2月22日12時51分にニュージーランド南島のクライストチャーチ市近郊でMw6.3の地震が発生した[1].この地震において,クライストチャーチ市街地でCTVビルの崩壊に代表されるように建物崩壊による犠牲者が多数発生し,現在も救助活動ならびに復旧活動が進められている.ニュージーランドGNSは地震直後よりクライストチャーチ市街を含む数多くの強震観測記録が公開しており,特に震源域では重力加速度に相当する980cm/s^2を超える加速度記録が得られたことが報告されている[2].土木学会では本地震による被災状況を調査することを目的として,3月1日現地に調査団を派遣することとなった[3].今回,本調査団に団員として参加する機会を得たことから,現地調査を行うにあたり地震と地震動の概要について事前整理した.このため,以下の各項目は現地調査の内容によって変更される可能性のあることを予め断っておく.


2.地震の概要

 本地震はクライストチャーチ市街地の南東を震源とするMw6.3の地震である.本地震のおよそ半年前の2010年9月4日に,クライストチャーチの西方でMw7.0の地震(Darfield地震)が発生しており[4,5],今回の地震はその余震と考えるのが一般的なようである[1,2,6].前回のDarfield地震は,北西-南東方向に圧縮軸をもつ右横ずれ型の地殻内地震であり,約20kmにわたり地表断層が表れた[7].本地震の震央は,Darfield地震の断層走向方向の延長上に位置しており,その震源深さが5kmと浅いことから地殻内地震とされている.ただし,今のところ地表断層に関する報告は見当たらない.USGSのCMT解によると,右横ずれ型と逆断層型の間に相当するようなメカニズムであったことを示唆しており,また,地震後の余震の震源分布から,南西-北東方向に走向を持つ断層面であったと推察されている[2](Fig.1).本地震の震源過程はまだ未確定な要素も多いが,震源付近にアスペリティが1つあったのではないかと言われている[8,9].また,本地震により発生した地殻変動はクライストチャーチ南東で最大で40cmと推定され,その空間分布は震源より北側に断層が伸びていることが示唆している[10].すなわち南落ちの断層であると考えるのが妥当なようである.

 本地震の地震記録を用いてEvent term [11]を計算した(Fig.2).Event termはAbrahamson and Silva(1997)の距離減衰モデル[12]に対して地震毎にどの程度ずれているかを示す指標で,地表断層の表れない潜在断層地震と地表断層の表れる地表断層地震でその特徴が異なることが知られている.断層走向70度,傾斜角60度とし,Somerville et al.(1999)のM0-断層面積の関係[13]を用いてMw6.3に相当する面積を持つ正方形断層を仮定した.ただし,地表に断層面が達していると仮定している.観測点は断層距離が5-50kmの範囲にあるものを用い,観測点のサイト情報はGNSによって公開されているものを利用した.求められたEvent termは,短周期側で0を下回り,長周期側で0を上回るような右上がりの傾向にあり,潜在断層地震と地表断層地震とを区別するだけの顕著な特徴はみられない.このため,いずれの地震タイプであったかを議論するためには観測点の選定を吟味する等より詳細な分析が必要だと思われる.

 

Fig.1:本震のCMT解(USGS1)),本震後1日間の余震分布(GeoNet2))及び疑似速度応答スペクトルのピーク値・周期分布

Fig.2:断層距離5-50kmの観測点を用いて求めたEvent term11)


3.地震動の概要

 本地震ではクライストチャーチ中心部付近で複数の強震記録が得られている.Fig.3はその加速度記録をEW成分,NS成分について示したものである.震源に近いHVSC観測点では,両成分ともに1000cm/s^2を超える最大加速度が記録されている.クライストチャーチ中心部に位置するCCCC,CHHC,CBGS観測点ではおよそ400cm/s^2の最大加速度が記録されている.波形の特徴を比較して分かるように,HVSC観測点と比較してクライストチャーチ中心部の記録は短周期成分と比べて長周期成分が顕著である.また,REHS観測点において顕著なように,S波の到達時より数秒遅れて大きな振幅のフェーズが見られることも特徴である.Darfield地震の観測記録についても同様に比較すると(Fig.4),クライストチャーチ中心部の記録は同様に短周期成分よりも長周期成分が目立つことがわかる.つまり,この特徴は本地震の震源距離によるものではなく,地盤振動の違いを表しているものと考えることができる.さらに,本震のクライストチャーチ中心部の記録にはサイクリックモビリティの影響によるものと思われる,先の尖った形状のフェーズもみられる.すなわち,クライストチャーチ中心部は堆積層が厚く柔らかい地盤であり,本震時には非線形化したことが示唆される.

 Fig.5はクライストチャーチ中心部で得られた記録の加速度応答スペクトルとAbrahamson and Silva(1997)の距離減衰モデルとを比較した図である.なお,5km以下の断層距離の地点でこの距離減衰モデルを適用してよいかについては難しい面もあるが,クライストチャーチ中心部の観測点はおよそ5km離れた位置にあるので,比較しても意義がないわけではないと思われる.全体的な傾向としては,距離減衰モデルのレベルと観測のレベルは一致しており,地震の規模と断層距離に対して平均的な観測記録であったと考えられる.サイト特性は,HVSCを除く観測点はdeep soilにHVSCはrock or shallow soilに分類すると合いがよいようである.すなわち,距離減衰モデルとの比較によっても,クライストチャーチ中心部は厚い堆積層に覆われていると考えるのが妥当であると思われる.なお,特徴的な点として,REHS観測点やCHHC観測点などのように,距離減衰モデルのdeep soilよりもさらに長周期側の応答が大きく,逆に短周期側の応答が小さく求められていることが挙げられる.本地震で観測された記録の水平動と上下動成分のスペクトル比をその余震,およびDarfield地震のものと比較すると(Fig.6),本震の記録は他のスペクトル比よりも低周波数側,つまり長周期側にピークがシフトしている傾向が見られる.これは,本震の入力レベルが高いことに起因して生じた地盤の非線形化によるピークシフトと考えられる.ただし,構造物の被害を説明する上で重要な周期帯1−2秒の周期帯の地震動レベルが地盤の非線形化によって大きくなっているかについては不明であるが,より長周期側については地盤の非線形化によるピークシフトの影響は考えられる.

 

Fig.3:クライストチャーチ中心部付近の本震加速度記録

Fig.4:Darfield地震における同観測点の加速度記録

Fig.5:距離減衰式と比較した各観測点の加速度応答スペクトル

Fig.6:観測記録の水平動・上下動成分のスペクトル比


4.おわりに

 本報告では,USGSのCMT解ならびにニュージーランドGNSが公開した強震記録を利用させて頂きました.記して感謝致します.浅野公之助教(京大防災研),山田真澄助教(京大防災研)には,大変参考になる意見を頂きました.ありがとうございました.また,地震で犠牲となった方々にご冥福をお祈りするとともに,被災地の1日でも早い復興をお祈り申し上げます.


参考文献

1) USGS:Magnitude 6.3 - SOUTH ISLAND OF NEW ZEALAND

2) GeoNet:Feb 22 2011 - Christchurch badly damaged by magnitude 6.3 earthquake

3) 土木学会:2011年 「クライストチャーチ地震調査団」 派遣について

4) USGS:Magnitude 7.0 - SOUTH ISLAND OF NEW ZEALAND

5) GeoNet: Sep 4 2010 - Darfield earthquake damages Canterbury

6) 東京大学地震研究所:2010年9月,2011年2月 ニュージーランド南島の地震

7) GNS:2010 Darfield (Canterbury) Earthquake

8) 名古屋大学地震火山・防災研究センター:NGY地震学ノート No.34

9) 筑波大学:2011年2月22日にニュージーランドで発生した地震(暫定)

10) 国土交通省 国土地理院:ニュージーランド南島で発生した地震に伴う地殻変動(報道発表)

11) Somerville, P.G.: Magnitude scaling of the near fault rupture directivity pulse, PEPI, 201-212, 2003.

12) Abrahamson, N.A. and Silva, W.J.: Empirical Response Spectral Attenuation Relations for Shallow Crustal Earthquakes, SRL, 94–127, 1997.

13) Somerville et al.: Characterizing crustal earthquake slip models for the prediction of strong ground motion, SRL, 59–80, 1999


文責 後藤浩之京都大学防災研究所

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