Earthquake

（2009/8/16 追記）第１報を公開しました → 第１報．今後このページは更新しません．

１．はじめに

　2009年8月11日5時7分，駿河湾を震源とするMj6.5¹⁾の地震が発生した．この地震では，静岡県伊豆市市山，焼津市宗高，牧之原市相良，牧之原市静波，御前崎市御前崎，御前崎市白羽で震度６弱が観測されるなど，静岡県の太平洋沿岸部を中心に強い揺れを観測した¹⁾（Fig.1）．本地震の被害は未だ全容が明らかでないものの，ライフラインや交通遮断による影響が発生している³⁾．東名高速道路上り相良牧之原IC付近の盛土法面路肩部崩落のため，8月11日現在東名高速道路が一部区間で上下線とも通行止である．

　後藤浩之（京都大学防災研究所），和田一範（京都大学都市社会工学専攻M1），中田光彦（京都大学地球工学科B4）の３名は東名高速の盛土法面崩落による被害の一報を受け，8月11日に牧之原地域を中心とした被害調査を実施したのでその一部を報告する．東海道新幹線の掛川駅を起点とし，県道37号，県道79号を利用して同日午後に崩落現場に到着した．以降，牧之原市役所で被害状況の確認および防災科学技術研究所K-NET榛原観測点を確認し，再度ほぼ同様のルートで掛川駅に戻った（Fig.2）．調査が初動調査であったことから地域の限られた調査であったこと，断片的な情報に基づいた被害調査であったことを付記しておく．また，本報告の内容は詳細な検討を行った後に修正される可能性があることを断っておく．

　

Fig.1：震度分布，及びCMT解（防災科学技術研究所（F-net）²⁾）

Fig.2：今回の被害調査ルート（赤線），および盛土法面崩壊箇所（黒丸），K-NET榛原観測点（青四角）

２．東名高速道路上り相良牧之原IC付近の盛土法面路肩部崩落現場

　路肩崩落現場は東名高速道路の牧之原SAから東へ2kmほどに位置する．現場付近の盛土軸線方向はほぼ東西方向で，北側法面が崩落したために上り線が影響を受けている．崩落高さはおよそ10m，軸線方向40mの範囲で土砂が崩落している．現場の北側から細い管理道路（？）を徒歩で登り，崩落現場へ達する．植生で覆われているため，下側から全体像を伺うことは難しい．

   

　現場周辺は三栗の集落であるが，外見でわかるような明瞭な被害は住宅に見られない．低い石垣ではモルタルがわずかに剥がれたような断面も見られるが，崩れるまでには至っていない．また，崩壊現場の法下の西側に２基の墓石があったが振動で動いた形跡はない．法下に河川があるが，この河川を越えるための小さな橋にも被害は見あたらない．

   

３．K-NET榛原観測点と牧之原市役所周辺

　牧之原市役所南側の運動場の隅に防災科学技術研究所K-NET観測網の榛原観測点（SZO018）が設置されている．この観測点では本震時に震度６弱の地震動を観測している．観測点周辺の住宅などに外見上あきらかな被害は見られない．市の災害対策本部の情報から，この地域の住宅の被害は一部損壊に限られ，道路被害も東名高速のものに限られるようである．

   

　斜面災害に着目した地震動の特徴を把握するためにK-NET榛原観測点の記録に対して片側必要強度スペクトル⁴⁾を計算した．片側必要強度スペクトルは，斜面上に土塊を仮定し，土塊ー斜面間の相対変位を許容値に抑えるために必要な最大摩擦力（重力加速度で無次元化：水平震度値・必要強度）を土塊の固有周期毎に計算したものである．斜面を想定して許容する相対変位の方向を片側とするため，各成分に対して正方向と負方向で２本の曲線が得られる．Fig.3に示すスペクトル図では，過去に斜面災害が顕著であった地域に対応する地震動と考えられる2004年中越地震の山古志記録，2007年能登半島地震のK-NET富来記録（ISK006），及び2008年岩手宮城内陸地震のKiK-net一関西記録（IWTH25）と比較している．K-NET榛原記録のNS成分では0.7秒程度で水平震度0.25程度のピーク値を示すが，これは他の地震記録と比較して小さな値であることがわかる．

 

Fig.3：許容残留変異10cmに対する片側必要強度スペクトル⁴⁾（左：EW成分，右：NS成分）