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Earthquake

2014年11月22日に発生した長野県北西部の地震について (first report: 2011/11/24, last update: 2011/12/1)

(注意) 下記内容は速報です.今後,内容が修正・更新されることがあります.

・東京工業大学 盛川先生の報告はこちら


1.地震の概要

 11月22日22時8分に長野県北西部を震源とするMj6,7の地震が発生しました.震源の深さは5kmと推定されており[1],震源のメカニズム解(CMT解)[2]から北西ー南東方向に圧縮軸を持つ逆断層型地震であると考えられます.余震の震源分布[3]から南東方向に傾斜する断層面であったことが示唆されますが,初動解とCMT解が異なること[4]や,CMT解に非ダブルカップル成分が含まれていることなどから,単純な1枚のセグメントで震源断層を説明できないような複雑な地震であった可能性も考えられます.

 複数の機関・研究者より,糸魚川ー静岡構造線やひずみ集中帯といった大局的な地質構造との関連や,既知の活断層であった神城断層との関連が指摘されています.本地震のメカニズムを分析するためには,このような地質学的な背景を踏まえて議論することが望ましいのですが,白馬村神城において非常に局所的に建物被害が集中した地区が認められたため,地震動と構造物被害との関係に着目してデータの整理と現地調査を実施しました.


2.地震動の概要

 防災科学技術研究所K-NET,およびKiK-net地震観測網で記録された地震動について,その特徴を概観します.下図は水平2成分合成値の最大加速度および最大速度の分布です.最も顕著な地震動を観測したのは震央の近傍に位置していたK-NET白馬(NGN005)で,最大加速度および最大速度はそれぞれ572cm/s/s,61cm/sです.地震動強さは震央から同心円状ではなく,やや震源断層の東側に偏っているように見られます.この現象は,震源の特徴や地震波の伝播する経路,そして地盤構造の違いを含めて検討する必要がありますので,原因を特定するためには詳細な分析が必要です.


 最大速度値の大きなK-NET白馬,K-NET信濃(NGN002),KiK-net戸隠(NGNH28)の速度波形を比較すると,いずれもS波到着直後にパルス状のフェーズ,特にK-NET白馬のEW成分(N090E)に三角形状のフェーズが認められます.パルスの時間幅は1秒よりも長いように見えるため,短周期成分のみが卓越した地震動と結論付けることは難しいように感じます.より正確に地震動に含まれる周波数成分を議論するため,擬似速度応答スペクトル(減衰定数5%)を示します.1995年兵庫県南部地震で記録されたJR鷹取波に比べてレベルはいずれも小さいが,0.5秒付近と1.5秒付近とに2つのピークが見られることが特徴的です.速度波形に見られたパルス状のフェーズは,1.5秒付近のピークに相当する可能性もあり,表層地盤などにより局所的に地震動が増幅するのであれば,構造物に対して危険な地震動となったことも否定できません.


3.白馬村の被害の様子

 地震および地震動の特徴を踏まえた上で,11/24に白馬村において現地調査を実施しました.同行者は,盛川仁,飯山かほり(東京工業大学)の2名です.当時,日本地震学会秋季大会に参加するため新潟市にいたことから,新潟市を起点とし,白馬村で調査をした後,再び新潟市に戻りました.また,後述する余震観測機材を回収するため,11/26に吉見雅行(産総研),飯山かほりの2名と共に現地入りしました.下図は現地調査を行った地域を図示したものです.

 構造物被害が確認された箇所は非常に限定的で,白馬村神城の堀之内地区,三日市場地区,およびその東側に位置する集落のみです.JR大糸線・国道沿いの地域や白馬村役場付近には,目視する限り被害はまったく認められませんでした.また,明瞭に地表断層が表れた城山地区,大出地区では,断層変位による家屋の傾斜などありましたが,顕著な地震動被害は認められませんでした.一方,地表断層が顕著ではない堀之内地区,三日市場地区で顕著な地震動による被害が認められています.現地の写真をまとめて下に掲載します.コメントは各写真をクリックすると表れるポップアップ画面に記載しています.

 ○ 堀之内

 ○ K-NET白馬(NGN005)

 ○ 大出

 ○ 城山


4.余震観測の状況

 白馬村神城堀之内地区周辺が局所的に被害を受けた原因を探るため,臨時余震観測を実施することにしました.余震観測は,東京工業大学山中浩明教授のグループとの共同研究で,我々のグループは3台の強震計(ITK-002)を設置しました.地震計設置箇所はK-NET白馬の近傍(H01),大出地区(H02),堀之内地区(H03)の3点です.大出地区の観測点は地表断層と思われるとう曲の表れた箇所のごく近傍に,堀之内地区の観測点は堀之内地区の東端に設置しました.

 余震観測記録の一部を紹介します.下図は,11/25早朝に発生した余震記録です.K-NET白馬,H01と比較して,H02やH03の振幅は2倍ほどあります.P-S時間から,H01とH02の震源距離はほぼ同じと考えられますが,H03や震源からやや離れていると推測されます.地震動の距離減衰特性を考慮して議論しないといけませんが,少なくともH03はある程度揺れやすい地点ではないかと考えられます.詳細な検討はこれから進めていく予定です.


5.まとめ

 11/22に発生した長野県北西部を震源とする地震について,現地調査の結果を速報として取りまとめました.現地で実施した余震観測データを分析することで,堀之内地区周辺で発生した局所的な被害の原因を今後考察していく予定です.

 本報告では,防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET,KiK-net)の記録を利用させて頂きました.記して感謝致します.被災者の皆様にお悔やみ申し上げますとともに,1日でも早い被災地の復旧 をお祈り申し上げます.


参考文献

[1] 気象庁:平成26年11月22日22時08分頃の長野県北部の地震について.

[2] F-net:地震のメカニズム情報.

[3] Hi-net:気象庁一元化処理 震源リスト.

[4] 地震調査研究推進本部地震調査委員会:2014年11月22日長野県北部の地震の評価.

文責 後藤浩之京都大学防災研究所

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