Earthquake
平成28年(2016年)熊本地震について [English version] (first report: 2016/4/15, last update: 2016/4/26)
(注意) 下記内容は速報です.内容が修正・更新されることがあります.リロードしてからご覧下さい.
東京工業大学 盛川仁先生の調査報告はこちら
1.地震の概要
2016年4月14日21時26分に熊本県熊本地方を震源とするMj6.5の地震,および4月16日01時46分にMj7.3の地震が発生しました.両地震の震央は約10kmの距離に隣接しており,震源深さはそれぞれ11km,12kmと推定されています[1,2].この地震について気象庁は「平成28年(2016年)熊本地震」と命名しました[3].震源のメカニズム解(CMT解)はいずれも横ずれ断層型の地震を示唆しています[4].下図は余震の震央位置を図示したもので,青点が4/14の地震発生時から4/16の地震発生までの余震,赤点が4/16の地震発生以降の余震を表しています.余震の震源が布田川断層帯・日奈久断層帯に沿って表れていること,CMT解による断層走行とがおおよそ一致することから,当断層との関連が予想されます.また,4/16の地震以降に阿蘇地区,大分県などでも地震が活発となっていますので,状況の推移をみることが必要です.
2.地震動の概要
4/14の地震では熊本県益城町の震度計で震度7が観測されました.計測震度に移行してから震度7が観測された3番目事例となります(2004年中越地震の川口町,2011年東北地方太平洋沖地震の栗原市).一方,4/14の地震で震度6強は観測されませんでした.このことは,地震動による被害(影響)が広域に発生しているのではなく,被害があるとしても特定の地域に局所的に発生している可能性を示唆するものと考えます.
4/16の地震では,益城町,西原村小森で震度7を,熊本県南阿蘇村,菊池市,大津町,宇城市松橋町,宇城市小川町,宇城市豊野町,合志市,熊本中央区,熊本東区,熊本西区の9地点で震度6強を観測しました.4/14の地震に比べて,震度6強が広範囲に観測されていることから,地震による被害(影響)が広範囲に及んでいることが予想されます.
防災科学技術研究所K-NET,KiK-net地震観測網,および気象庁震度計で記録された地震動について,その特徴を概観します.下図は水平2成分合成値の最大加速度および最大速度の分布です.4/14の地震では熊本市から益城町にかけての範囲に限られていた強い地震動(PGV50cm/s以上)の範囲が,4/16の地震では熊本から大分県まで拡大していること,また観測値も大きいことがわかります.震度7を観測した益城町に位置するKiK-net益城(KMMH16)において,4/14の地震では最大加速度および最大速度それぞれ925cm/s/s,92cm/sを観測,4/16の地震では最大加速度および最大速度それぞれ1314cm/s/s,133cm/sを観測しました.また,震度7であった益城町役場の記録は,4/14の地震では最大加速度および最大速度それぞれ815cm/s/s,138cm/s,4/16の地震では最大加速度および最大速度それぞれ896cm/s/s,182cm/sを示しています.
KiK-net益城(KMMH16),益城町役場(LGV Mashiki),K-NET熊本(KMM006),気象庁熊本西区春日(JMA Kumamoto)の速度波形を比較します.4/14の地震ではS波到着直後にやや短周期のパルス状のフェーズが2つ認められます.一方,4/16の地震では,断層近傍の波形に特徴的な三角形状のパルスが確認で,明らかに周期が異なります.また,いずれの観測点においても,4/16の地震の方が速度振幅が顕著です.
より正確に地震動に含まれる周波数成分を議論するため,擬似速度応答スペクトル(減衰定数5%)を示します.1995年兵庫県南部地震で記録されたJR鷹取波に比べると,0.5秒より短い周期では4/14の地震,4/16の地震ともにほぼ同等のレベルです.しかし,1秒より長周期側では,4/16の記録の方がよりJR鷹取波に傾向が似ています.ピーク周期に着目すると,KMMH16では4/14の地震が0.47秒であるのに対し,4/16の地震では0.98秒と長周期側にあることがわかります.加えて益城町役場の記録は,4/16の地震において0.6秒から1.8秒の範囲でJR鷹取波を上回っているようです.
ただし,強い地震動を受けた構造物は非線形応答をしますので,本来非線形性を考慮したダイアグラムで議論する必要があります.ここでは,非線形性を考慮した「必要強度スペクトル」によって考察します.必要強度スペクトルとは,所定の塑性率(ここでは9.0)となるような水平震度(降伏震度値)を縦軸に,線形固有周期を横軸にプロットしたものです.南北成分は,いずれも似た傾向を示していますが,KMMH16の東西成分は4/14の地震,4/16の地震両者ともかなり大きな値を示しています.特に,初期固有周期0.2-0.5秒の範囲でJR鷹取波(NS成分)を上回っていることは重要な特徴です.
3.被害調査
本地震による被害を受け,土木学会平成28年熊本地震調査団(先遣隊)の一員として4/16に現地被害調査を実施しました.同行者は福島康宏(エイト日本技術開発)です.4/15に鳥栖で宿泊,4/16の早朝に現地に向かい,4/16は八女に宿泊しました.このため,4/16未明の地震は鳥栖にて体感しています.
全体的な傾向として,4/14の地震よりも4/16の地震によって生じた被害の方が顕著であり,かつ熊本地域に限ってみても広範囲に及んでいます.4/14の地震では,益城町の一部地域に局所的に被害が発生しています.また,九州自動車道での盛土崩落被害,九州新幹線の脱線事故が発生しています.一方,4/16未明に発生した地震では,建物被害は宇土市から益城町までの広範囲にわたっています.加えて,益城町の建物被害はより深刻度を増しています.以下,それぞれの地域で確認した被害のうち主要なものについて被害状況,およびその写真を掲載します.可能な限り,被害の発生時(4/16未明以降か,それ以前か)に注意して調査しましたが,両者の影響を厳密に分けることは困難であることを申し添えておきます.
本調査では,幾つかの地点において(単点)微動観測を行いました.調査箇所に近い地点のH/Vスペクトル比も併せて示しています.なお,測定記録は余震の影響を強く受けていますので,通常の常時微動と同様に扱えない可能性もあることを予めお断りしておきます.
a. 熊本地方合同庁舎(気象庁熊本西区春日観測点) [Google Map]
熊本地方合同庁舎には,気象庁直轄の震度計である熊本西区春日観測点があります.地震計はやや高台に設置されているようです.視認できる範囲に重大な被害は見当たりません.合同庁舎ロビーには多くの被災者が休んでおられました.
b. 九州新幹線脱線箇所周辺(4/14の被害) [Google Map]
4/14の地震において,坪井川にかかる箇所で九州新幹線が脱線しました.当地周辺にある八嶋神社では本殿周囲の石塔等が倒れていました.住民の方によると神社の被害は4/14には発生していたとのことですが,その他の被害(路面の目地開き,墓石の転倒等)は4/16未明の地震によるものだそうです.このため,後者は新幹線の脱線と関連性がない,と考えられます.
c. 宇土市役所(K-NET KMM008(宇土))(4/16の被害) [Google Map]
宇土市役所庁舎は4層目と5層目が中間層破壊をしていました.RC造と思われます.表面に見える柱状のものは意匠(デザイン)だと思われますが,その奥に見える構造部材(柱)がせん断破壊しているようです.この被害は4/16未明の地震によるものです.この市役所敷地にはK-NET KMM008(宇土)観測点がありますので,直接地震動の記録から議論することができる可能性もあります.KMM008の記録は最大水平加速度882cm/s/s,最大水平速度85cm/sでした.擬似速度応答スペクトルの周期は0.71秒と,KMMH16に比べるとやや短周期側にあるようです.
d. 嘉島町(4/16の被害) [Google Map]
嘉島町では,複数の集落で家屋の倒壊が発生しています.私たちが状況を確認した嘉島町鯰では,基本的に耐震性の低い木造住宅に被害が集中していました.住民の方によると4/14の地震後に一部瓦の被害はあったとのこですが,大きな被害は4/16の地震により発生したとのことです.
e. 地表断層と思われる地盤変状 [Google Map]
九州中央自動車道と国道443号が交差する箇所付近において,右横ずれ成分をもつ地盤変状を確認しました.最大30cmの食い違い変位をもつ.地すべり性の地盤変状をもたらすような地形でないと考えられること,震源断層のメカニズムと調和的であること,既存断層帯の位置と整合的であることから,地表断層の一部ではないかと考えられます.なお,4/15までわずかであった(変位はあった)が,4/16未明の地震でここまで成長したとうことです.本箇所の状況は吉見雅行(産業技術総合研究所)さんに伝え,現場を確認していただいたところです.
f. 益城町 [Google Map]
益城町総合体育館から益城町役場にかけての範囲について被害状況を確認しました.4/16未明の地震以前の被害状況を知る由もありませんが,現時点では相当数の建物被害が発生しています.特徴的なことは,この地域の傾斜が複雑で,傾斜のある地域で被害率が高いことです.建物被害の大きな箇所は地盤の被害も大きく,建物の足元がすくわれる形で倒壊しているものも見られます.また,クラックが下部(基礎)側に進展していることから,倒壊していない家屋に対しても地盤の影響が示唆されます.秋津川沿いの比較的平坦な箇所や,新しく開発されたと考えられる高台の宅地ではあまり大きな被害となっていないことから,緩傾斜地における宅地被害の特徴を呈している可能性があります.
g. KiK-net KMMH16(益城)周辺 [Google Map]
KiK_net KMMH16(益城)は益城町役場の北東およそ600mの位置にあります.周辺は県道28号沿いに比べて比較的新しい年代の宅地と考えられます.周辺の被害は町役場周辺よりも軽微です.
h. 九州自動車道 盛土被害(4/14の被害) [Google Map]
九州自動車道の下り線,益城熊本空港ICー嘉島JCT区間において,道路盛土の被害が発生しました.この被害は4/14の地震で発生したものです.天端から法面にかけて盛土が崩壊しています.地図上,および現地からわかることですが,崩壊箇所の東側に自動車道に沿うように河川があります.崩壊箇所の南側で流下方向が西向きとなり,秋津川に合流しています.この流下方向の形状が自動車道に平行,垂直ですので,人工的な改変が考えられます.旧地形図を用いた議論が必要ですが,崩壊箇所が昔の旧河道で下部地盤が軟弱であった可能性が考えられます.現地で確認できる範囲では河川に向かって土塊が流れ込むような崩壊形状となっていますが,小段の上側の崩壊形状とは異なるかもしれません.
4.まとめ
4/14および4/16に熊本県で発生した地震について,現地調査の結果を速報として取りまとめました.4/16の地震によって,4/14当時に予想していた被害状況より深刻な被災となっています.ここでは具体的に取り上げませんでしたが,国道3号をはじめとする多くの一般道において橋梁の桁部とその取り付け部の間に段差が生じています.このため,通行不能な箇所が多く,日中は激しい渋滞を引きおこしています.加えて,安全な避難所の不足によって,多くの方が屋外,車内で避難生活をしておりました.燃料の枯渇も進んでおり,ガソリンスタンドでの渋滞,またそれに伴う交通渋滞も発生しております.
今回調査に至りませんでしたが,阿蘇地域での被害,および大分にかけて広範囲にわたる影響についてもこれから調査が進められることになろうかと思います.犠牲者の方に哀悼の意を表します.多くの被災者の方々が避難生活を余儀なくされていることも忘れてはなりません.1日でも早い被災地の復旧をお祈り申し上げます.本報告では,防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET,KiK-net),および気象庁震度計の記録を利用させて頂きました.記して感謝致します.
参考文献
[1] 気象庁:平成28年4月14日21時26分頃の熊本県熊本地方の地震について(第3報)
[2] 気象庁:平成28年4月14日21時26分頃の熊本県熊本地方の地震について(第7報)
[3] 気象庁:平成28年4月14日21時26分頃の熊本県熊本地方の地震について(第4報)
[4] F-net:地震のメカニズム情報.
[5] 中田高・今泉俊文:活断層詳細デジタルマップ,東京大学出版会,2002.