Japanese/English 

Earthquake

平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の現地調査報告(第1報) update 2011年3月17日

(注意) 下記内容は速報です.内容が修正・更新されることがあります.(→ 速報


0.調査報告を書くにあたって

 東北地方太平洋沖地震の現地調査報告を書く前に,今回の調査に至る経緯と調査方針,目的について説明します.

 道路,鉄道,ライフラインといった市民生活の根底をなす土木構造物は,救援活動ならびに復旧活動を行うために優先的に復旧が進められます.この復旧活動が再重要であるということは言うまでもありませんが,地震で受けた被害が実際にどのようであったかを横断的に把握することが,今後の地震対策を進める上で重要な情報となります.このため,可能な限り早い段階で被害調査を行いたいと考えていますが,今回の地震は津波による甚大な被害から原子力発電所の事故までもを含んだ複合災害であり,通常地震後に行う地震被害調査とは状況が異なりました.そこで,本調査を行うにあたり,以下の方針を立てました.研究所としての方針と我々の方針とを併せて列挙します.

- 原子力発電所の状況を常に把握する
- 研究所/大学から発せられた指示に従う.また,危険と判断した場合にはただちに調査を中止する
- 海岸沿いの津波被災地は救援が最優先であるため入らない
- 最低2日間分の非常食,飲料水等を携行する.
- 所内教員との連絡を密にとる

 調査について許可していただいた研究所の関係者の方々に大変感謝致します.また,被災地域が広域におよぶため,限定された地点のみの調査であったことをご了解頂きたいと思います.

目次

1.調査の概要

2.仙台市の様子

 鍬田泰子准教授による報告(PDF1

3.古川駅前の様子

 鍬田泰子准教授による報告(PDF2PDF3

4.北上ー盛岡駅間の高架橋被害

 高橋良和准教授による報告(PDF


1.調査の概要

 3月11日14時46分に三陸沖を震源とするマグニチュード9.0(Mw)の地震が発生した[1].この地震では,宮城県栗原市築館で震度7を観測し,また宮城県,福島県,茨城県,栃木県の広い範囲で震度6強を観測している[1](Fig.1).気象庁およびUSGSによると本地震のメカニズムは北西ー南東方向に圧縮軸をもつ逆断層型地震で,震源の深さからみても太平洋プレートと北米プレートとの間で発生したプレート境界型地震であると考えられる.Fig.1に示す震度分布からも示唆されるように,今回の地震断層は南北方向におよそ500kmにも及ぶ長さの地震断層が破壊したと考えられている.本地震では,大津波警報を発する規模の津波が発生し,その津波による被害は広範囲かつ甚大である.

 本地震による土木構造物の被害状況を調査するため,高橋良和准教授(京都大学防災研究所),鍬田泰子准教授(神戸大学),後藤浩之(京都大学防災研究所)の3名は,3/13-16の日程で現地に赴いた.本調査のルートは以下の通りである.

・3/13:宇治東ICー(名神高速ー北陸道)ー新潟西ICー(国道7号)ー酒田
・3/14:酒田ー(国道47号)ー大崎市古川ー(国道4号)ー仙台ー(国道4号)ー大崎市古川ー(国道47号)ー酒田(泊)
・3/15:酒田ー(国道7号)ー仁賀保ー(秋田自動車道)ー北上西ICー(国道4号など)ー北上・花巻ー(国道4号など)ー北上西ICー(秋田自動車道)ー(国道7号)ー酒田ー(国道7号)ー新潟ー(北陸道ー名神高速)ー宇治東IC

 調査はルートに沿って概ね行いましたが,その中で我々が見た特徴的な被害について取り上げて報告します.

 

Fig.1:震度5弱以上の震度分布と本震のCMT解(USGS[2])

Fig.2:調査ルート(上図:3/14,下図:3/15)


2.仙台市の様子

 → 鍬田泰子准教授による報告(PDF1

 八木山橋の様子:青葉城址近くの八木山橋は地震によって20cm程の段差ができていた.橋梁の取り付け部の盛土中央に開口クラックと盛土の側方へのはらみだしによって頂部が沈下したことによるものと考えられる.

 青葉区桜ヶ丘の様子:地表の傾斜と垂直な方向に開口クラック,液状化の痕跡がみられた.

 K-NET仙台(仙台市宮城野区苦竹)の記録と応答スペクトル:上記の被害地点とはかなり(数km)離れた位置の観測点であることに加えて地盤条件も全く異なると考えられるが,参考のため最も近い地震動の特徴を調べてみる.最大加速度・最大速度ともにNS成分が顕著で,かつその最大値も1000gal程度,70kine程度と小さくないことがわかる.加速度応答スペクトル(Sa)と疑似速度応答スペクトル(pSv)を兵庫県南部地震の記録と比較すると,pSvは兵庫県南部地震の神戸海洋気象台(JMA Kobe)と似た特性を持つことがわかる.



3.古川駅前の様子

 → 鍬田泰子准教授による報告(PDF2PDF3

 古川駅西側の被害状況を調査した.歩いて調査したルート(青線)と被害の様子を併せて図示した.古川駅近くでは液状化による被害が顕著であるが,その一方で中里地区では液状化被害はなく,家屋被害が目立っている.なお,調査ルートから確認できる範囲のみの被害状況であるということ,家屋被害の有無は定量的なものではないことを予め断っておく.ところでこの地域には免震建物があり,オーナーの証言によると建物内に置いてあるものが倒れたりすることはなかったということである.

 古川駅西側の液状化の様子:古川駅西側の地域で液状化による噴砂の痕跡が確認された.液状化によってマンホールが60cm程度浮き上がっている箇所や,街路樹が倒れる現象が見られた.(写真番号は図中の番号に対応します)

(1) (2) (3)

(4) (5) (6)

 古川中里地区の家屋被害の様子:液状化した地域をさらに西に進んだところで局所的に家屋の被害の大きな地域が見られた.確認した限り,この地域に液状化の痕跡は見られない.倒壊した家屋はおおむね木造であるが,鉄骨造の家屋の倒壊も見られた.(写真番号は図中の番号に対応します)

(1) (2) (3) (4)

(5) (6) (7)

 古川駅北側の高架橋の様子:古川駅北側の新幹線高架橋を確認したところ,橋脚などに損傷は確認されなかったが,液状化の痕跡が見られた.ただし,高架橋に取り付けられていたパイプが落下し,車両の被害が出ていた.

 荒雄神社の様子:古川駅そばの荒雄神社では,石灯籠の転倒,手水舎の倒壊,石鳥居の上部の落下が見られた.おおむね北西ー南東方向であった.

 龍洞院の様子:同じく古川駅そばの龍洞院では,門柱の転倒や墓石の転倒が見られた.転倒方向はおおむね北西ー南東方向である.証言によると,門柱は1度目の震動では揺れたものの転倒しなかったが,2度目の震動で飛び出して転倒したということである.

 ところで,古川地域にはK-NET古川と気象庁の観測点と2つの地震観測点がある.3/17現在,記録が公開されていないが,無事に記録が回収されることを願っています.


4.北上ー盛岡駅間の高架橋被害

 → 高橋良和准教授による報告(PDF

 高架橋に見られた大きな損傷(第5鳥喰BL,第1中曽根BL)

 大きな損傷が認められた高架橋の傍で,地震動によって振動したと思われる畜霊碑があった.畜霊碑は転倒していないものの,碑の下部に3cmほどの上下方向の開きが認められた.

 K-NET北上(北上市二子町鳥喰)の記録と応答スペクトル:上の被害地点の比較的そばにある観測点である.ただし地盤条件が同じである保証はない.NS成分がやや顕著であるものの,2成分で大きな違いは見られない.最大値は600gal程度,40kine程度とである.疑似速度応答スペクトル(pSv)は神戸海洋気象台(JMA Kobe)よりやや短周期にピークをもつ特性であることがわかる.


 2003年の三陸南地震で損傷した高架橋(第5猪鼻BL)の今回の様子:今回の地震による被害は,外見上見られなかった.


5.おわりに

 本調査では,今回の地震に伴う被害として海岸からある程度離れた地域のいくつかの地点を調べた.津波災害が甚大であることは事実であるが,それ以外にも地震に伴う顕著な被害がポイント・ポイントではあるものの存在することが確認できた.

 本報告では,USGSのCMT解,防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET)の記録,ならびに気象庁の震度情報を利用させて頂きました.記して感謝致します.また,googleの地図を利用させていただきました.本地震で犠牲となった方々にご冥福をお祈りいたしますとともに,1日でも早い被災地の復旧をお祈り申し上げます.

参考文献

[1] 気象庁:平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震関連情報

[2] USGS:Magnitude 9.0 - NEAR THE EAST COAST OF HONSHU, JAPAN


文責 後藤浩之京都大学防災研究所

Mail to : gotocatfish.dpri.kyoto-u.ac.jp (@は半角の@に置き換えて下さい)